2022.10.17業務効率化
経理DXとは? 3つの事例やメリット、進め方を解説
経理DXの必要性は十分に理解しているものの、どこから着手すべきか分からないといった企業担当者も多いようです。経理業務をDX化して多様なメリットを得るためには、正しい手順や方法を学び、進めていかなければなりません。本記事では、経理DXの概要や注目されるようになった背景、対象となる業務、期待できるメリットを解説します。
目次
● 経理DXとは
● 経理DXが注目される理由
● DXが可能な経理業務の3事例
● 経理DXを推進するメリット
● 経理DXの進め方
● 経理DXの推進に役立つツール
● 経理DXを推進する際のポイント
デジタル技術の活用により、組織のビジネスモデルを変革する取り組みがDXです。経理DXとは、経理部門にデジタル技術を取り入れて安定的に業務を遂行したり、効率化を図ったりすることを指します。経理部門は、限られた人員でさまざまな業務に対応するケースが少なくありません。
決算書の作成や取引の仕訳、請求書の作成など多くの業務があるため、従業員にかかる負担は膨らみがちです。しかし、利益に直結する部署ではないという理由から、人員を増やしてもらえなかったり、コストをかけてツールを導入してもらえなかったりすることも珍しくないケースが多いようです。
また、経理業務の性質上、生産性が上がりにくいのも課題に挙げられます。些細な数字の間違いであっても、大きな問題へ発展する可能性があるため、ミスがないよう慎重に業務が進める必要があります。経理DXは、従来の経理業務が抱える課題を解決に導く取り組みです。
経理DXがこれほど注目されるようになった背景には、経済産業省が指摘した「2025年の崖」問題があります。今後、深刻化が予測される人手不足解消に向けて、経理業務全体を見直す企業が増えています。また、電子帳簿保存法やインボイス制度へ対応するために、経理DXの実現に向けた取り組みを始める企業も多くなっています。
2025年の崖とは、経済産業省が公表した「DXレポート」で指摘した問題です。経済産業省は、企業のレガシーシステムやIT人材不足が要因となって、2025年以降に最大12兆円もの損失が発生すると指摘しました。レガシーシステムとは、古い仕組みで構築された企業固有のシステムを指します。
出典:「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(経済産業省)
( https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf )
現在、多くの日本企業がレガシーシステムを抱えています。システムの最新化をおそれ、現行システムを使い続けた場合、DX推進が困難になり組織の競争力は低下する可能性があります。経済産業省が指摘するシナリオ通りに進むと、多くの企業が窮地に立たされるだけでなく、国力の低下にもつながりかねません。
参照:経済産業省,2019年3月5日,「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
(2022年10月4日取得
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf )
電子帳簿保存法の改正により、2022年1月以降から電子取引に関しては、電子データでの保存が義務付けられました。現行法では、電子取引における内容を記録した文書は、紙にプリントアウトした状態での保存が認められていました。一方、改正法では、書類の種類によって電子データでの保存とスキャナを使用した紙での保存を使い分けなければなりません。
改正電子帳簿保存法には、2年の猶予期間が設けられています。これまで後れをとっていた中小企業は、この期間を有効に活用して2023年12月末までに、電子書類を管理できる環境や体制を整える必要があります。
電子帳簿保存法とは?改正点や対応のメリットを、図を用いてわかりやすく解説
インボイス制度の正式な名称は、適格請求書等保存方式です。2023年10月から始まるインボイス制度とは、税額や適用税率を明記した請求書(インボイス)に基づき、消費税の計算と納付を行う制度です。
インボイス制度がスタートすると、経理部門は従来の業務に加え、適格請求書とそれ以外の請求書を区分して管理しなければなりません。業務の手間が増えることにより、経理部門の負担はますます大きくなるものと考えられています。従業員にこれまで以上の負担をかけないために、積極的にデジタルツールの導入を検討するようにしましょう。
インボイス制度とは?図解を用いてわかりやすく解説!
経理人材が不足している理由として、業務難易度の高さが考えられます。日本社会全体で人手不足が深刻化しているため、専門的な知識や十分な経験を持つ人材を探し出すのは非常に困難です。とくに中小企業では、業務のルールを把握している特定の従業員に任せきりとなってしまうケースも多いようです。
期日までに終えなければならない定型業務や単純な作業をデジタル化すれば、業務の質は担保されます。このような理由から、経理DXは属人化の解消に効果的です。本格的な人手不足に悩まされる前に、少ない人員でも十分に競争力を維持できる環境整備が求められています。
経理業務の中で自動化に適しているのは、請求書発行や受領業務、給与計算、決算業務です。経理業務からDX化を始める場合、まずはこれらの業務にデジタル技術を取り入れ、様子を見ながら組織全体へ対象の範囲を広げる方法もあります。
経理部門が担う請求書の発行や受領業務は、意外と手間がかかります。請求書は、取引の内容を証明する大切な書類です。企業の信頼を損なわないためにも、人的なミスは避けなければなりません。そのため、複数人もの目でチェックしているといった企業も多いようです。
DX化に役立つツールの中には、データを読み込むだけで請求書の発行から送付まで実行してくれるものもあります。このようなツールを活用すれば、請求書発行時のプリントアウトや封入、郵送の手配に要していた時間から解放され、業務効率の向上が実現します。
給与計算では、記録されている勤怠情報に基づいて従業員ごとに計算しなければなりません。給与計算業務に携わるためには、労働基準法・所得税法・社会保険などの知識も必要です。多大な手間と労力を要する給与計算に日常的な業務が圧迫され、残業につながるケースも少なくないでしょう。
給与計算業務の効率化を実現するには、給与管理システム単体で運用するよりも、勤怠管理システムや人事労務システムと連携すると成果が出やすくなります。勤怠データが給与管理システムに自動で反映される仕組みをつくれば、ヒューマンエラーの防止にも高い効果を発揮します。
経理業務の中でもっとも重要度の高い業務が決算業務です。決算書は、ステークスホルダーに対して企業の経営実績を明らかにする目的で作成されます。正確性とスピードが求められる決算業務は、その重要性から属人化を引き起こしやすくなっています。
このような課題を抱える決算業務の効率化には、経理DXの推進が有効です。会計システムなどのツールを導入して各システムとデータを同期すれば、正確性の向上とスピードアップが見込めます。また、誤って古い数値を入力してしまうといった人的ミスの回避にも役立ちます。
経理DXによるペーパーレス化は、業務効率の向上を実現に導く取り組みです。デジタル化によってムダな手間を省き、創造性の高い価値ある業務を行うことがDX本来の目的です。効率化で浮いたリソースをデータ分析に投じれば、経営の意思決定を加速する効果も期待できます。
業務の自動化を実現するデジタルツールやクラウドサービスを導入して連携すれば、大幅な効率化が見込めます。企業独自に開発されたレガシーシステムを利用している場合、システム同士の連携は困難です。そのため、他のシステムから必要なデータを取り出して別のシステムへ入力するといった二度手間が発生します。
システムの連携による効率化は、生産性の向上や省人化を可能にします。また、効率よく業務を遂行できる環境が整うと、従業員のストレスが低減するため、モチベーションのアップに効果的です。さらに、従業員の負担を減らしてワークライフバランスが実現できる環境を整備すれば、従業員エンゲージメントの向上にも結びつきます。
経理業務では、さまざまな書類の発行や保管・管理を行います。多くの書類を扱う経理業務でペーパーレス化が実現すれば、大幅なコスト削減が可能です。業務の自動化によって、人手を必要とする業務が減れば、人的リソースの削減も見込めます。
紙を使ったやり取りは、印刷や封入に要する手間がかかります。また、インク代や郵送費、ボールペン代などの備品も必要です。これらのコストを削減してリソースを最適化すれば、資金に余裕が生まれ、企業の成長につながる新たな商品・サービスの開発に注力できるようになります。
専門性の高い経理業務は、業務の属人化が発生しやすい部門のひとつです。そのため、時期によって特定の従業員へ業務が集中してしまうケースも珍しくありません。属人化が解消されないまま担当者が休職・離職してしまえば、業務のブラックボックス化が起こり、業務が停滞してしまう可能性も考えられます。
経理DXは、このようなリスクを回避に有用です。テクノロジーが業務をサポートしてくれるようになれば、担当者に左右されることなく業務の質が維持できます。経理DXを成功させるには、自社の業務に適したツールやサービスを適切に見極めることが大切です。
近年では、SDGsに向けた取り組みを発信する企業が増えています。SDGsとは、国連加盟国が2016年~2030年までの15年間で達成すべきゴールを示したものです。SDGsには17の目標があり、その中のひとつに「陸の豊かさも守ろう」という目標が掲げられています。ペーパーレス化は、木を原料とする紙の消費を大幅に減らし、森林を守ることにつながります。
このように、経理DXの取り組みがSDGsの貢献へとつながるケースもあるため、ブランドイメージの向上にも効果的です。「地球環境に配慮している企業」「環境保護に意欲的な企業」と認識されるようになると、消費者の信頼も獲得しやすくなります。また、企業の思いに共感した優秀な人材が集まりやすくなるのもメリットのひとつです。
非効率な作業をなくせば、残業時間は少なくなります。労働環境が改善された働きやすい職場は、従業員のモチベーションがアップしやすいため、生産性の向上や離職率の低減も期待できます。また、経理DXの取り組みにより、多様な働き方に対応できる企業へ進化できるのもメリットです。
働き方の多様化に対応した環境の構築は、人手不足問題の解消にも有効です。たとえば、リモートワークに対応できる環境を整備すれば、何らかの理由により出社が困難な人や、遠隔地に在住している応募者も積極的に採用できます。デジタル化の採用は、必要な人材を効率よく確保するためにも必要な取り組みです。
経理部門におけるデジタル化の遅れを取り戻すため、DX化を急ぐ企業が増えています。しかし、正しいステップを理解しないまま闇雲に進めてしまえば、失敗するおそれがあります。まずは、現状の業務を正しく把握して問題点を洗い出し、経理部門の目指すべき姿を明確化するようにしましょう。
経理DXの第一歩として取り組みたいのがペーパーレス化です。まずは、改正電子帳簿保存法に基づき、電子保存が認められている書類のデータ化を進めます。ペーパーレス化をサポートするツールを導入するほか、外部サービスを利用する方法もあります。
取引先などから受領した請求書・領収書などの書類は、スキャナでの保存が可能です。ペーパーレス化を支援するツールには、経費精算システム・請求書発行システム・会計ソフト・ワークフローシステムなどがあります。
業務を自動化する手段として、RPAの導入が考えられます。RPAは、これまでPCで行ってきたルーティンワークや単純作業を自動化できるツールです。RPAを用いると、受領した請求書のデータ化から照合・処理・通知まで、一連の業務を自動化することが可能です。近年では、AIとの組み合わせにより、非定型作業を自動化できる事例もあります。
また、経費精算業務をサポートしてくれるシステムを使えば、あらゆる経費を一元で管理できます。会計ソフトと連携して仕訳データの生成を自動化すれば、ヒューマンエラーの防止にも効果的です。なお、経費精算システムを選ぶ際は、電子帳簿保存法に対応しているかどうかの確認も忘れないようにしましょう。
さまざまなシステムに蓄積されたデータを統合し、経営状況をタイムリーに可視化できる仕組みを構築します。経営陣や各部門の責任者、現場の担当者が必要とするデータはそれぞれ異なるため、経理部門だけでなく、一定のスキルがあれば誰もが対応できる業務にしておくことが大切です。
データを取得するまでのタイムラグをなくせば、経営状況をタイムリーに把握できようになります。経営や事業の意思決定を加速させるためにも、経理DXの実現に向けた取り組みを始めましょう。
上述したように、経理DXを実現するには、業務をサポートするツールの導入が欠かせません。代表的なものとして、クラウド会計システム・ERP・ワークフローシステムなどが挙げられます。ツールを比較検討する際には、導入費用やランニングコスト、機能、操作性など、さまざまな面からチェックを行い、自社の業務に適したツールを選定しましょう。
クラウド会計システムは、さまざまな会計業務をオンラインで実行できるシステムです。インターネットに接続できる環境と端末があれば、外出先でも利用できます。端末にインストールして使うタイプの会計ソフトは、新バージョンがリリースされるたびに製品を購入し、インストールし直さなければなりません。
一方、クラウド型のサービスを導入すれば、オンラインでスピーディーにアップデートできるため、常に最新バージョンを利用できます。また、自動バックアップ機能が搭載されたシステムを採用すれば、データ消失のリスクも回避できます。
ERPは、組織が保有するあらゆるデータを一元的に管理できるツールです。経営資産である「ヒト・モノ・カネ」の最適化を目的としたパッケージソフトウェアであり、ひとつのデータベースで販売から生産在庫までの管理を行います。
ERP内の関連データを統合的に管理して、最新の状態に更新すれば、リアルタイムな経営状況の可視化が可能です。情報の一元管理によって組織全体の業務効率が上がるだけでなく、経営判断のスピードアップにも有用です。
働き方改革などにより、業務改善が求められるようになった昨今、ワークフローシステムを取り入れる企業が増えています。ワークフローシステムは、申請・承認業務をデジタル化するツールです。申請から承認までのプロセスをシステム上で完結できるようになれば、現場のさまざまな非効率が解消されるため、従業員にもDX化のメリットを感じてもらいやすくなります。
経費の精算や稟議書の受け渡しをオンライン上で行えば、ペーパーレス化は大きく前進します。ツールを活用することにより、申請業務の見える化が可能になれば、内部統制の強化にも効果的です。
「二次元ワークフロー・ソリューション」は、1ユーザあたり月額330円で利用できるワークフローシステムです。業務プロセスと承認プロセスをつなぐことにより、ワークフローを一本化してさらなる効率化を実現します。外部データベースとの連携にも対応しているので、BtoB企業にも適しています。
・「二次元ワークフロー・ソリューション」
https://www.mugen-corp.jp/solution/wf/
経理DXに取り組む際は、組織内外の理解を得ることが大切です。これまでの慣れたやり方を変え、新たなシステムを構築するため、他部署や取引先の協力は不可欠です。DXを進める理由や得られるメリットなど、丁寧に説明するようにしましょう。
業務改善の成果を出すには、現状を正しい把握と問題点の洗い出しが必要です。各業務の必要性を見直すために、現場で作業を担当している従業員へヒアリングした内容から問題を深く掘り下げ、原因を突き詰めておくのもポイントです。
また、DX化にITツールの導入は欠かせません。そのため、ITリテラシーが低い従業員が取り残されないための配慮も必要です。誰もが問題なく業務を遂行できるよう、作業内容の可視化やマニュアルを作成し、スムーズに共有できるようにしておきましょう。
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